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弁護士コラム これでわかった!B型肝炎訴訟

発症していない「無症候性キャリア」の方の給付金請求や手続きの流れ

2020年03月11日
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発症していない「無症候性キャリア」の方の給付金請求や手続きの流れ

昭和23年~昭和63年の間、国の施策による集団予防接種などで注射器の使いまわしが行われたために、多くの方がB型肝炎の持続感染者となってしまいました。

こうした方々が国に対して損害賠償を求める訴訟を提起し、給付金を受け取られていますが、実は症状がでていない「無症候性キャリア」と呼ばれる方も給付金の対象となります。症状がでていないことで、なかなか請求に踏み込めない方が多いようですが、早期に請求手続きを開始されるべきです。

今回は無症候性キャリアの方が受け取れる給付金の額や請求するべき理由、手続きの方法などについて解説します。

1、無症候性キャリアとは

  1. (1)B型肝炎の概要とC型肝炎との違い

    肝炎ウイルス感染は、肝炎ウイルスが血液や水・食物を媒介して肝臓に感染し、肝炎(肝臓の炎症)を引き起こします。
    人に感染する肝炎ウイルスは主にA型、B型、C型、D型、E型の5種類が存在しますが、日本において感染可能性があるのはD型を除く4種類です。この中で血液を媒体として感染するのがB型とC型です。世界ではB型肝炎ウイルス持続感染者が約3億5000万人、C型肝炎ウイルス持続感染者が約1億7000万人いるといわれています(2002年WHO推計)。

    B型肝炎ウイルスは、C型肝炎ウイルスと比べて血中濃度が非常に高いため、感染力が継続します。感染経路としては、母子感染や医療行為、性的接触などがあり、日本では特に母子感染と幼少期の感染が多いとされています。B型肝炎の場合は、対象期間(昭和23年7月1日~昭和63年1月27日)に7歳未満で集団予防接種等を受けていればどなたでも感染している可能性があるため、過去に手術などを経験していない方でも意識して確認する必要があります。

    一方、C型肝炎ウイルスは医療行為による感染が主な経路となり、母子感染や性的接触による感染は稀だといわれています。また、主には過去に大きな手術や輸血があった方、臓器移植を受けた方、血液透析を受けている方など、感染可能性が高い方には特徴があります。

  2. (2)発症していない「無症候性キャリア」

    免疫機能が確立されている大人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、ほとんどの場合、免疫反応が起こり、ウイルスは駆除されます。多くの方は自然治癒しますが、急性肝炎を発症した方でもその終結とともに免疫ができ、今後B型肝炎にかかることはありません。

    一方、幼少期の集団予防接種等や母子感染などによってB型肝炎ウイルスに感染した場合、幼い子どもは免疫機能が未熟なため、免疫反応が起こらずウイルスが駆除されません。そして肝炎を発症しないままウイルスが潜伏した状態が継続することになります。
    こうした状態を「無症候性キャリア」と呼び、しばらくは健康な状態が継続します。検査数値も正常で、何の自覚症状もないことは珍しくありません。

  3. (3)無症候性キャリアの発症リスク

    B型肝炎における無症候性キャリアの方は、その後、およそ90%の割合で10代~30代のうちに肝炎を発症しますが、ほとんどが軽い症状で自覚症状もなく、肝機能障害も進行しません。
    しかし、残りの約10%の方は治療が必要とされる慢性肝炎を発症します。肝炎が悪化すると、疲れやすい、だるい、食欲不振、黄疸、尿が黒褐色になるといった症状がでる場合があります。そして慢性肝炎が長期化すると、肝硬変や肝細胞癌に発展してしまう危険性があると指摘されています。
    そのため無症候性キャリアの方は、肝臓に異常が生じていないのか、定期的に検査する必要があります。

2、無症候性キャリアでも給付金を請求することはできる?

国の責任でB型肝炎ウイルスに持続感染した方には、裁判で和解が成立すれば、症状に応じて50万円~3600万円の給付金が支給されます。
症状がでていない無症候性キャリアの方も給付金を受け取ることができます。

  1. (1)無症候性キャリアの方が受け取れる給付金

    無症候性キャリアの方の場合、給付金の内容は、感染してから何年経過しているのかによって変わります。
    「感染してから」とは、集団予防接種等による、いわゆる一次感染者については、基本的には集団予防接種等の実施日を指します。母子感染による、いわゆる二次感染者場合には、基本的に出生日を基準とします。

    感染してから20年経過していない方の給付金は600万円です。
    感染してから20年以上経過している方の給付金は50万円です。また、加えて次の援助を受けられます。

    • 年4回までの血液検査費用及び腹部エコー検査費用
    • 年2回までのCT、MRI等の画像検査費用
    • 年2回までの各1万5000円、合計年3万円の検査手当
    • 結婚、出産時の家族を対象とした感染防止医療の費用援助


    20年経過している方が上記援助の対象となっているのは、無症候性キャリアの方は感染から年月が経過し高齢になるにつれて、発症や重症化するリスクが高まるため、定期的に検査を受け、早期発見につなげてもらう必要があるからです。

  2. (2)無症候性キャリアの方も請求手続きをするべき理由

    集団予防接種等で感染した方は最大で40万人にものぼるとされていますが、未だ給付金を受け取っていない方が多くいらっしゃいます。
    特に無症候性キャリアで感染から20年以上経過している方は、給付金額が50万円と聞くと、手続きにかかる手間と受け取れる金額を天秤にかけ、躊躇してしまうことがあります。
    しかし、無症候性キャリアの方でも給付金の請求手続きをしておくべきです。その理由は以下のとおりです。

    • 無症候性キャリアの方はいつ発症するか分からないため、早期発見、重症化予防のための検査を受けておく必要がある
    • 請求期限までに無症候性キャリアの給付金対象として認定されておけば、将来B型肝炎ウイルスが原因で慢性肝炎や肝硬変、肝がんを発症しても追加給付を受けられる
    • 家族への感染防止医療を受けられる
    • 後になるほど、保存期間の経過などにより請求に必要な資料の収集が困難になる(母子手帳やカルテなど)
    • 未発症で体調が良好なうちに手続きを済ませておくことで、いざというときの追加給付請求手続きがスムーズにできる

3、手続きは難しい?給付金の請求手続きの流れや注意点とは

B型肝炎給付金は、何もせずに受け取れるわけではありません。おおまかには次の流れで請求手続きを行う必要があります。

  • 必要な書類および証拠の収集
  • 請求の可否を検討
  • 訴訟の提起、和解手続きの開始
  • 給付金の受け取り


  1. (1)必要な書類および証拠の収集

    まずは医療機関などで血液検査を受け、感染状態を確認します。そのうえで次のような書類や証拠を収集します。

    • 血液検査結果
    • 母子手帳または市区町村に保存されている予防接種台帳の写し
    • 接種痕が確認できる旨を記した医師の意見書または患者死亡時には予防接種状況についての陳述書
    • 住民票または戸籍の附票
    など


    必要な書類や給付要件などについては厚生労働省の手引きにも記載されていますが、ひとりですべてを集め、内容を適切に理解することのハードルは高いと思われます。
    また、収集した書類や証拠に不備がないのか、代替可能な書類には何があるのかといった点も確認せねばなりません。

  2. (2)請求の可否を検討

    B型肝炎の給付金を請求できるのは、次のいずれかの要件を満たす方です。

    • 満7歳になるまでに集団予防接種等を受け、注射器の連続使用により持続感染した方(一次感染者)
    • 一次感染者であるご両親のいずれかから感染した方(二次感染者)、二次感染者であるご両親のいずれかから感染した方(三次感染者)
    • 上記の方が亡くなった場合の相続人


    つまり、B型肝炎ウイルスに感染していても、上記の経路以外で感染した方は要件を満たさず、給付金の対象外となることを意味しています。これは、そもそもB型肝炎訴訟が、B型肝炎ウイルス感染者一般に対する福祉的措置ではなく、国が衛生行政の誤りを認め、被害者を救済するための損害賠償措置として金銭を支給する仕組みだからです。
    そこで、ご自身がいつどの経路で感染したのかについて、収集した書類や証拠をもとに検討し、請求対象となる方は実際の請求手続きに入ることになります。

  3. (3)訴訟の提起、和解手続きの開始

    訴訟と聞くと不安になる方が多いかもしれませんが、B型肝炎訴訟は法律(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法)にもとづき、裁判所を通じて国と和解することにより給付金を受け取るのが通常です。
    一般的な訴訟と異なり、感染原因が集団予防接種等にあったことを認定してもらう手続きであり、勝ち負けを争うものではありません。裁判手続きも簡素化されていますので、対象となる条件さえ満たしていれば、一定の時間は要するものの、ほぼ確実に給付金を受け取ることができます。

  4. (4)給付金の受け取り

    和解が成立すると、病状に応じて和解調書が作成され、病状ごとにあらかじめ定められた和解金が社会保険診療報酬支払基金から支払われます。無症候性キャリアの方は前掲したとおり、感染時期によって50万円か600万円になります。

  5. (5)手続きを弁護士に一任するべき理由

    無症候性キャリアの方含め、B型肝炎給付金を請求される方は、給付金の請求手続きを弁護士へご依頼されたることをお勧めしますが、それはなぜでしょうか。

    手続きをご自身で行うことは物理的には可能です。しかし多数の書類の内容をよく理解し、不備がないよう精査し、訴訟に入れば専門的な知識をもった相手と交渉を行う必要があります。
    場合によっては医療機関や裁判所を何度も行き来しなくてはならず、お仕事や家事育児、あるいは介護などと並行して行うことは相当な負担が伴います。さらにタイムリミットまで設けられているため、弁護士の力は不可欠といえるでしょう。

    弁護士は資料の収集と作成を速やかにかつ不備なく行い、資料がそろわない場合でも有効な代替資料を検討します。訴訟に入っても法的知識をもとに和解交渉を進めますので、認定される可能性が高く、かつスピーディーな解決に期待できます。
    国も弁護士の利用を想定しおり、弁護士費用の一部が支給されますので、弁護士利用の検討をおすすめします。

4、病気が進行した場合、追加で給付金を受け取ることもできる

無症候性キャリアとして給付金を受け取った後に発症してしまっても、追加給付金を受け取ることができます。
追加請求の場合は、すでに無症候性キャリアとして認定されているため、訴訟の手続きを経る必要はありません。所定の診断書などの必要書類をそろえて、社会保険診療報酬支払基金に提出し、B型肝炎ウイルスが原因で発症してしまったことが認められれば、比較的スムーズに追加給付金を受け取ることができます。

発症した場合の追加給付金の額は、病態および感染からの経過年数に応じて650万円~3600万円になります。
除斥経過前の無症候性キャリアの方や、すでに発症していた方で、除斥経過前の給付金額を受け取っている方の病態進行については、新たな病態に応じた額と、国との和解時に受け取った額との差額を受け取ることになります。
和解時に、除斥経過後の金額を受け取っていた方については、差額ではなく、新たな病態に応じた額を受け取ることができます。

追加給付については、「病状の進行を知ったときから3年以内」に申請が必要です。当初の認定を得るための訴訟手続き終了後はもとより、訴訟手続きの最中に発症する場合もありますので、定期的に検査を受けておくことが大切です。
発症してしまった場合には、速やかに弁護士へ相談し、追加給付の手続きを行うことで、今後の治療や生活のための費用として充てることができます。

5、まとめ

今回はB型肝炎の無症候性キャリアの方へ向けて、給付金の内容や手続きの流れを中心に解説しました。
無症候性キャリアの方が給付金を請求することは、一時金の受け取り以外にも、継続検査への意識づけ、発症した場合の追加給付金のスムーズな申請など、多くのメリットがあります。しかし、こうしたメリットも請求期限内に手続きをしなければ享受することができません。
手続きに際して不安や疑問をおもちであれば、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所へお問い合わせください。弁護士がご相談者様の状況に応じたアドバイスをし、給付金受け取りまでを徹底的にサポートいたします。

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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